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「監修」するなら目ぐらゐ通せ

「数字でわかるお江戸のくらし」(監修 東京大學史料編纂所教授 山本博文)といふ本を買った。どういふ本かといふと、Amazonの紹介はつぎのとほり。

数字でなるほど! ビジュアルで楽しい!
面白おかしい八百八町の生活

 時間がゆるやかに流れ、人と人とのつながりが濃いのが江戸時代である。
 今では失われた社会に郷愁を抱くためか、江戸ブームと呼ばれる状況がある。江戸の人々の所作を学び、江戸切絵図を片手に現在の東京を散策する人も少なくない。
 本書は、江戸についての文献や史料に基づきながら、『数字』をキーワードとして「江戸時代の庶民の生活から社会まで」を幅広く概観したものである。

・庶民(棒手振り)の一日の収入はいくらぐらいか
・週休5日だった!? 武士の生活とは
・駕籠の初乗りの運賃はいくらだったか
・大奥の維持費は200億円以上!?

…などなどの興味あふれる事柄を、現在の単位・価値などに換算することで、江戸と現代を面白く比較することができるようになっている。
 また簡にして要を得た説明のほか、200点を超える江戸の生活を描写した絵画史料を活用したのも、本書の大きな特徴である。ここに描かれた人びとの姿や風景を丹念に見ていけば、自然と江戸時代の生活へタイムスリップできる。

こんなふうに書いてあるので、粗忽亭は江戸時代に關する數値データをあつめた本だらうと思った。さういふものが一冊にまとまってゐるといふのもハンドブック的で便利でよいかな、と思って買ってみたのだ。
たしかにさういふデータもいろいろあった。だけど、「『数字』をキーワードとして」ってのは、必ずしもさういふ意味ばかりだけではなかったのだ。たとへば御“三”家についての項目がある。あるいは“三”奉行についての項目もある。要するに數字がちょっとでもからめばOK、といふことらしい。しかも奧付と參考資料を見るかぎり、編輯プロダクションが、一般向けの輕い歴史本からまとめたもの、のやうだ。少々期待はずれであった。ネット書店で本を買ふと、かういふ失敗はどうしても避けられない。
さて、そのなかに『悲劇的結末を迎えた「徳川四天王」』といふ項目がある。これがまことにお粗末なものであった。
ちょっと引用してみよう。(ルビは略)

 とくにこのなかでも本多作左衛門忠勝の働きは、後生(ママ)に燦然と輝く華々しいものが多い。生涯57の戦いに赴いて、傷ひとつ負わなかったといわれ、その戦場での鬼神の如き戦いぶりから、忠勝のふたつ名は「鬼作左」。(後略)

本多忠勝の通稱は作左衞門ではなくて平八郎だ。「家康に過ぎたる物が二つあり、唐の頭と本多平八」といふことばを知らんのか。作左衞門は、おなじ本多でも本多重次の通稱だ。參河三奉行の一人であったとき、「佛高力、鬼作左、どちへんなしの天野三兵」と謳はれたのだ。ここからわかると思ふが、「鬼作左」といふのは、むしろその性格を評していったものだ。主君家康に對してさへも、平氣でづけづけと諫言したやうな剛直な人だったらしい。
しかし、ただ剛毅で氣性のはげしいだけの人物ではなかったやうだ。重次關連で一番世に知られてゐるのは、彼が妻にあてた手紙文。曰く「一筆啓上、火の用心、お仙泣かすな、馬肥やせ」。この手紙文や、また、奉行をつとめてゐたことから察するに、才知もあった人なのだらう。

それからこの項目、あとの方にはこのやうなところもある。

 だが、江戸時代になり、家康は彼らに重要なポストを与えたのかというと、実際はそうでもなかった。直政は戦の傷がもとで早死にし、忠次は家康と不仲になって疎遠となり(後略)

えーと、「江戸時代になり」って、酒井忠次は關ヶ原の戰ひの4年も前に死んでゐるんですが。「不仲になって疎遠となり」っていふのは、家康の長子信康が嶽父織田信長から武田勝頼との内通をうたがはれたとき忠次が辯解しなかったために(ばかりでもなからうが)切腹させられた、といふ事件があり、家康がそれを遺憾としてゐたといはれてゐる(異説あり)ことを指してゐるのだらうが、なんにしろ「江戸時代にな」ってからのことではない。
さらにこの項目についてゐた小見出しは「残ったのは2家」となってゐる。直政と忠次をのぞいて2家、ってことなのだらうけれど、「家」單位でみれば、4家とも大名として明治維新をむかへてゐる。殘ったのは2人、ならともかく、2家ではまったくまちがひだ。
こんな初歩的なまちがひが平氣で載ってゐるところをみると、山本教授は監修の名義を貸しただけで、原稿をまったく讀んでゐないものと推察する。もし讀んでゐてこれだとしたら、織豐時代~江戸時代を專門とする歴史學者としては、あまりにはづかしい。監修の名義を貸すのなら貸すで、原稿のチェックぐらゐはしてほしい。御自身で書かれた著書は結構おもしろいのだから。

ところでこの本の別の項目にだが、「食べあわせ」なる表現が出てくる。この編プロの人たちは、歴史知識だけではなく、日本語にも不自由なやうだ。きっと道草を食べたりしてゐる人たちなのだらう。こんな指摘をされて、いまごろ泡を食べてゐたりして。出版不況のあふりを食べたり、詐欺師に一杯食べさせられて倒産したりしないやうに氣をつけてくださいね。

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