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胡錦濤は本氣らしい

おどろいた。なににって、中國政府が四川大地震の救援に自衞隊機の派遣を打診した、といふ報道にだ。これだけはありえないと思ってゐた。
支那の近現代史は、一面、歐米列強からの被侵略史である。阿片戰爭を皮切りに、アロー戰爭、義和團の亂など、つぎつぎに侵略を受けた。その間の太平天國の亂も、歐米列強進出の足がかりとなった。
そして、そこにしんがりとして侵出したのが日本だ。日淸戰爭(これは義和團の亂より前)は朝鮮のとりあひ、といふ側面が強いが、滿洲事變、支那事變は、まがふことなく支那本土への侵略といえやう。(註1、註2)
そのながい被侵略史のなかで、現代中國が特に日本に對して批判的なのは、おもに二つの理由によるのではないかと私はかんがへてゐる。
一つは華夷思想の問題。支那にとってイギリスなど歐米諸國は、自分たちとは文化、歴史を異にする世界だ。そこに侵略されるのは、ある意味しかたがない。極端にいへば、火星人が地球侵略にやってきたやうなものだ。自分たちとはちがふやつらが、よその世界からせめてきた、そしてそれにやぶれた、といったところであらう。
だが、支那人からすれば日本は「東夷」だ。もちろん、朝鮮だって東夷なのだが、それはまだ陸つづきだ。だが、日本は海のはるかむかう、中華文明の餘光がわづかにとどく、といふ邊境中の邊境だらう。華夷秩序からすれば最低ランクだ。
そんなやつらに攻めこまれ、國をあらされ、いいやうにされた、といふのが特に深いうらみにつながってゐるのだと思ふ。
たとへて言ふのなら、足利將軍が管領の細川氏に實權をうばはれ、さらにその家臣の三好氏に、さらにそのまた家臣の松永久秀に實權をうばはれ、はては久秀に暗殺された(13代義輝)やうな感じか。松永久秀は、たとへば細川晴元にくらべて惡人のイメージがつよいが、それは管領の晴元ならまだしも、その家來の家來といふひくい身分のくせに、といふ感情がまつはるからだらう。同樣に、支那からみれば日本なんて華夷秩序の底邊の分際で、といふ感情は拔きがたくあるのだと思ふ。
そしてもう一つが支那侵略史の掉尾を飾ってしまったためだと思ふ。つまり、阿片戰爭以來のうらみがまとめて日本に向けられてしまった、といふ面があるのだと思ふ。
しかし、中國と日本とは隣國であり、しかもともに經濟大國である。にくいからとか、きらひだからとかといってつきあはないわけにはいかない。いしいひさいちの漫畫で、中國からの要求やらなにやらに對して小泉首相が「まるで遣唐使だな。」「朝貢かよ。」「勘合貿易だな。」とか應じて、「しかしいくらでも歴史的引用ができるな。」「いやでもつきあはざるをえないといふことですね。」といふのがあったが、まあ、そんな感じだ。それは日本にとっても、中國にとっても、だ。
そのため、中國は1972年の國交正常化以來、「先の戰爭は日本の軍國主義者が(あるいは軍が)惡いんです。日本人民が、日本全體が惡いわけぢゃないんです。」といふ理屈で「友好」をたもってきた。
しかし、江澤民は、天安門事件後の國内引き締めの必要もあって、「愛國敎育」として反日的な輿論をあふっていくやうになる。もちろんそこには江澤民自身が日本ぎらひである、といふ要因も大きかったであらう。
一方日本では「頑固者」の小泉首相が靖國神社參拜をくりかへし、中國はそれに反撥して首腦會談もできない状態になっていく。このころの兩國、あるいは兩國首腦は、いはばチキンレース状態で、ともに自分からさきに降りられなくなっていったのだと思ふ。その後、兩國首腦がかはったのを機に、關係改善の機運がたかまってきたのはご存じのとほり。
さて、その中國側がこのたび自衞隊機の派遣を打診してきたといふ。それはどういふことか。中國は「日本」に對してはともかく、「日本軍」に對しては徹底的なアレルギーがあるはずではなかったのか。
これは、中國が、といふか胡錦濤政權が本氣で日本との關係改善を考へてゐるのではないかと筆者は思ふ。それも江澤民以前の關係にもどす、のではなく、それ以上の友好關係を望んでゐるのではないだらうか。
日中の關係改善をはかるにあたっては、まづ、江澤民の「愛國敎育」で徹底的にわるくなった中國國民の對日感情を改善する必要がある。四川の大地震で日本の救助隊や醫療チームが中國に入った。その活動は中國内で報道され、おほむね好評であったらしい。日本のイメージがぐっとよくなった、と語る中國人も多いらしい。日本の救助活動が中國でしっかり報道されたといふこと自體、中國政府が日本のイメージアップをはかってゐる證據といえやう。そしてそれはおほむね成功したのだらう。そこで今度はそれを「日本軍」にまでひろげやうとしてゐるのではないか。
自衞隊の輸送機が救援物資(おもにテントらしい)を滿載して中國に降り立つ。中國メディアがそれを報道する。さうすれば「日本軍」はいまや中國侵略勢力ではない、むしろ友好勢力だ、と印象付けることができるだらう。
國と國とが本格的に友好關係を築かうとするのなら、たがひの軍事に對する信賴が不可缺だ。たとへばほとんどの日本人は、アメリカ軍は日本の味方だ、と思ってゐるからこそ、大東亞戰爭の過去にもかかはらずアメリカを最大の友好國とみなしてゐる。
いままでの中國は日本との友好は標榜しても、日本軍(軍閥、軍國主義者)は敵だ、といふ立場をとってきた。胡錦濤政權はそれを大きく轉換し、日本全體との關係を深めやうとしてゐるのではないか。どうもそんな氣がする。


(註1)嚴密にいふと滿洲は滿洲であり、支那本土ではないが、當時の中華民國の直前の大淸帝國が滿州族の皇朝であるため、事實上支那の範圍にふくめてよいと思ふ。
(註2)大東亞戰爭が100%純粹の侵略戰爭である、といふ意味で言ってゐるのではありません。そのうち支那事變については侵略的側面が大きいし、特に中國から見れば支那本土への侵略といふ解釋になるだらうといふ程度の意味です。


5月30日附記
結局自衞隊機派遣はみおくるやうですね。推測がどの程度あたってゐるか確認する機會がなくなって、ちょっと殘念。
ところで文中のいしいひさいち先生の漫畫の正確なネームが氣になったので、確認しておきました。以下のとほり。
「中国政府は小泉内閣を『相手にせず』との方針です。」
「相手にせず?オレは重慶政府か。」
「小泉後をさぐるためでしょう しきりと要人の訪中を求めています。」
「朝貢外交みたいだな。」
「ともかくキーワードは『靖国』です。おたがい納得することで関係修復のキッカケにしたいのでしょう。」
「勘合符貿易じゃあるまいし。」
「しかし、いくらでも歴史的引用ができるな。」
「いやでもつきあわざるを得んということですな。」

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コメント

私も「日本軍」が中国へ派遣されると聞いて頗る驚きました。
しかも、四川といへば重慶のある省です。
ところが、民衆は「助けに来てくれるならどこの軍でもいゝ」(テレビ朝日のインタビューに応じた現地被災者の言)と言つてゐるではありませんか。
この地域は「愛国教育」が不完全だつたのか、教育なんぞ非常時には吹き飛ぶものなのか、などといろいろ考へを巡らしましたが、いづれにせよ「日本軍」、ひいては日本の印象アップには願つても無い機会だと喜んでゐたのですが、反故になつたやうでまことに残念でなりません。
ところで、社民党が反対してゐたのはなかなか興味深かうございました。
ははあ、社民党は親中国と反自衛隊だと反自衛隊を優先させるのだな、と一つ勉強になりました。

一つお訊きしたいのですが、いしいひさいち先生のその漫画が載つたのはなんといふ漫画ですか?
是非読みたく思ひ、お手数ですが、教へていただければ幸ひです。

>あび卯月さん

被災者のあひだではともかく、中國全體では贊否なかばしたため、今囘はみおくった、との報道ですね。自衞隊、ひいてはわが國が決して「日本鬼子」ではないことをしめすいい機會だっただけに殘念ではありました。
毎日新聞あたりは、そもそも人民解放軍の一少佐の打診にすぎない、單なる一アイデアだったと報じてゐますが、にはかには信じられません。かの國の國情からして、いはば中間管理職にすぎない一軍人が獨斷でこのやうなことを言ふとは思へません。上層部の指示、乃至は了解のもとの發言だとかんがへるのが妥當でせう。すぐにひっこめてしまったところをみると、國内むけの觀測氣球の側面もあったのかもしれません。
社民黨は、自衞隊とか、米軍とか聞くと、内容にかかはらず自動的に反對する囘路がついてゐますので、まあ、しかたありませんね。
さて、本文中に引用したいしいひさいち先生の漫畫ですが、東京創元社創元ライブラリ「大問題'07」(いしいひさいち 漫畫・峯正澄 文)に收録されてゐます。いしい・峯兩氏の共著のかたちになってゐますが、文章はごくわづかで、實質的にはいしい先生の作品集です。このシリーズはほぼ毎年出版されてゐて、本書は2007年の發行で、2006年中の時事ネタが收録されてゐます。例によって上下左右こわいものなしに遠慮會釋なく、ぶった切りまくりです。いしい先生の時事ネタが好きな人にはおすすめのシリーズです。

いしい先生の漫画の件、御教示くださつてまことにありがたうございます。
なほかつ詳しく御説明してくださいまして重ねて御礼を申し上げます。
早速、今度本屋で探してみます!


>毎日新聞あたりは~

毎日にそんな記事がありましたか。
「要請したのは中国軍の少佐」とのことですが、政治評論家の三宅久之さんの説明では「政府は来て欲しかつたが軍部が嫌がつた」と述べてをられたので、これとは逆の説ですね。
真相はわかりませんが、いづれにせよ、残念な結果になりました。

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