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なんでも反對すればいいといふものではない

ひさしぶりに朝日新聞「聲」欄いぢりです。
今日の朝刊にのった「良心的脱走も逮捕するのか」といふ投書。投稿者は「作家 立花 薫(東京都江東区 37)」。

(引用ここから)
 日米両政府は、米側が脱走兵と認定した米兵について、すべて日本側に通知することで基本合意した(5日朝刊)。その結果、(中略)(脱走兵について)都道府県の警察に逮捕要請されることになった。
 (中略)すべての脱走米兵が犯罪行為を行うとは限らないだろう。そうした検討は必要なかったのだろうか。
 在日米軍基地から戦場に送りこまれる米兵が、自らの死傷を恐れ、または他者を殺傷することを嫌って実行する良心的脱走と呼ぶべき内容の脱走もありうる。そのようなケースでも日本の警察は脱走米兵を全力で捜索・逮捕するのだろうか。
 日本国憲法の前文には「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、生存する権利を確認する」とある。今回の合意はこの憲法の精神に反しているのではないかと心配する。
(引用ここまで)

書く方も書く方ならのせる方ものせる方だとしか言ひやうがありませんね。
第一に、今囘の合意は日本側がアメリカ側に、治安維持、犯罪の防止のために要請したことであり、それに對して米側が協力をする(脱走兵情報を提供する)といふものです。米側が日本側に脱走兵の搜索・逮捕の協力を要請するためのものではありません。であるから、脱走兵の情報の通知があったからといって、「日本の警察は脱走米兵を全力で搜索・逮捕する」義務はありません。
第二に、米兵の脱走は日本の國法には違反しないでせうが、アメリカの國法には當然違反します。ですから、日本の「犯罪行為を行」ってゐない米兵を逮捕した場合、米軍に引き渡すだけです。條約・協定にもとづいて駐留してゐる友好國、いや同盟國にその程度の好意的配慮をしめすことがそんなにわるいことでせうか。そもそも米側が脱走兵を、犯罪行爲をおこなひさうなのとおこなひさうにないのとに恣意的にわけて、犯罪行爲をおこなひさうなのにかぎり通知したりすれば、そのはうがよほど問題でせう。
第三に、良心的脱走云々といふことがそもそもをかしい。ベトナム戰爭の當時ならまだわかります。支持するしないは別として。當時の米軍は徴兵制でしたから。でも、いまの米軍は志願制です。軍に志願したといふことは「自らの死傷」の危險性があることを了解したうへで、ことによっては「他者を殺傷」することを任務としておこなふことがありうる職をみづから選び取ったといふことにほかなりません。にもかかわらず「自らの死傷を恐れ、または他者を殺傷することを嫌って」の脱走を「良心的脱走」の名のもとに容認するのなら、世の中はどうなってしまひますか。警察官が凶器をもって暴れてゐる犯人から「自らの死傷を恐れ」てにげても「良心的脱走」なので非難されるべきではないといふことになってしまひます。あるいは、消防士が「自らの死傷を恐れ」て、救助をもとめる人を見捨ててにげても、「良心的脱走」なのでしかたがない、といふことになってしまひます。
なほ、日本国憲法前文の當該箇所を段落ごと原文で引用すると、「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」となってゐます。前半部分の省略はともかく、「平和のうちに」をわざとはぶいてゐますね。これがあるとないとでは受ける印象が隨分ちがってきます。段落前半と合はせて讀めば、これはわが國が世界平和のために努力をすることをうたってゐることはあきらかです。決して「自らの死傷を恐れ」て職場放棄をすることを推奬してゐるわけではありません。
要するにこの投書は米軍憎し、政府憎し、米軍と政府のやることはなんでも反對、とにもかくにも米軍は日本から出て行け、と言ひたいにすぎません。
ところで小生、失禮ながら立花薫さんといふ作家を存じあげませんでした。檢索してみたら、ライトノベルを中心に二十册ぐらゐ著書のある方なんですね。いや、たいしたものです。で、その檢索で、以前「聲」欄にのったこの方のアレゲな投書がいくつかヒットしました。やっぱりもともとさういふ方なんですね。

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