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蛭児神建(元)著「出家日記」について

めずらしく書評(もどき)です。本はコンスタントに買っているのだけど、積読や拾い読みが多くて、きっちり通読するのは、出版数年後、というのが多いなか、めずらしく旬のうちに読んだので。

20年ぐらい前に「ロリコンブーム」というのがあった。ロリコンといっても、ほとんどはアニメ、漫画が対象で、現実の少女を対象にしたものはまれであった。はやいはなしが現在のエロゲの源流のようなものだ。当時は、今からはとても考えられないような未成年少女のヌード写真集なども出版されていて、結構売れていたらしいが、これの購買層はかならずしも「ロリコン」ではなかったといわれている。当時は陰毛が写っていると手がうしろにまわる時代だった。だが、10歳前後の少女には陰毛がないので、堂々とワレメを写すことができたので、単にワレメを見たい人が多く買っていたらしい。むかしは毛が駄目で少女(幼女)はOK、いまは逆。
さて、そのロリコンブームの中心人物の一人が蛭児神氏。本書のカバー、扉、解説漫画をかいている吾妻ひでお先生の作中に頻出した「変質者」のモデルだ。
その蛭児神氏が、当時のこと、そしてその後いかにして現在の姿である僧侶になったのか、ということが述べられている。
当時のブームの立役者たちと蛭児神氏との付き合いや確執が赤裸々につづられている。「レモンピープル」、「漫画ブリッコ」、「プチパンドラ」等を読んでいた人などには相当興味ぶかい内容だろう。私は「レモンピープル」を吾妻先生が執筆していた号にかぎって買った程度だし、蛭児神氏とはSF大会で一度お目にかかっただけなので、ここに書かれているような、蛭児神氏のわるい噂が流されたようなこと、「シベール」メンバーとの確執などは全然知らなかった。というか、竹内直子氏も愛読していたという「プチパンドラ」の編集を蛭児神氏がしていたことさえ知らなかったし。
それでもこういう生々しい話というのはおもしろい。蛭児神氏の名前を知っている人ならば読んで損はなかろうとおもう。
当時のはなしの中で、自分と対立した「破李拳竜の取り巻き」や「U・T」なる人物の批判がくりかえし出てくる。前書きで「自己の正当化や美化は極力避け、可能な限り赤裸々に書いたつもりである。しかし他人の悪口は、かなりセーブしてある。あの当時、彼らから言われ書かれた大嘘悪口の千分の一も書いていない。」と書いているとおり、意図的にわるく書いたつもりはないのだろう。しかし、そうはいっても一方からの証言ではあるので、それがすべて事実であるかどうかは保証できなかろう。本人の思いこみもなどまじっている可能性は充分にある。
そう私が感じたのは、別の部分であきらかな思いこみがみられるからだ。典型的な例を一つあげると≪新五千円札の肖像が樋口一葉なのも、妙に引っかかる。女流文学者としては明らかに与謝野晶子の方が偉大だが「君死にたまうこと勿れ」などと詩に書いたのが、特攻隊好きの馬鹿首相には気に入らなかったのだろう。≫(58ページ)というところ。
日本銀行券のデザインを決める権限が首相にあるのかどうかは知らないが、与謝野晶子が紙幣の肖像にならない最大の理由は、その孫が現役の政治家だからだ。自民党の与謝野馨代議士がそうだ。与謝野氏は、新五千円札が出た当時の自民党政調会長であり、現内閣府特命担当大臣だ。小泉首相には重用されているのだ。新聞で「小泉改革の司令塔」という表現まであった。与謝野晶子がきらいなら、その孫をこんなに重用するわけはなかろう。念のためにいっておくが、与謝野氏のサイトをみると、同氏は祖父母のことも「君、死にたもうことなかれ」も誇りにしていることがわかる。第一、首相が特攻隊に涙するのは「お国のために死ね」ということではなかろう。
このような余計な記述のため、他の部分の信頼性までうたがわせる結果になるのは残念だ。
ほかにも「トンデモ本の世界」シリーズを≪個人的にはとても面白いと思っている。≫としたうえでだが、≪明らかな狂人が書いた本を、嘲笑うのはどうだろうか?(中略)精神障害者だって本くらい書く権利は有る。それを笑いのネタにするのは(後略)≫(162~163ページ)などというあたりでも首をかしげてしまった。あそこで取り上げられた本(の一部)が「明らかな狂人が書いた本」かどうかというのも疑問だが、「精神障害者だって本くらい書く権利は有る」のと同様、読者には公刊された本を自由にたのしみ、批評する権利があると思うのだ。勿論、当ブログをふくめて、ネット上に公表された文章だってその例外ではない。
このように、本題とは直接関係ないことは書かなかったほうが全体の完成度を高めるうえではよりよかったのではないかと思う。このへんは編集者の責任でもあると思うが。
ついでにいえば、文章もへんに技巧に走らない方がよかった。みずからが生活保護を受けていることに関連して≪一生懸命働いた人の税金で飲む酒は、甘美である≫(164ページ)などというあたりは、偽悪がすけて見えて鼻につく。
こういう欠点を持ちながらも本書はおもしろい。特に蛭児神建でなくなってからのはなしがおもしろい。いろんな意味でまっとうでない生活をしてきたのだが、まっとうな人のまっとうな生活より、まっとうでない人のまっとうでない生活の方が読者としてはおもしろいからだ。さきに書いたこともふくめて、こういうのが読者の権利、というものだ。本書は読者の権利を行使できる、という意味において良書とよばれる資格は充分だと思う。

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